「クッキーの型を抜いたあとの生地をまた使うのは1回まで」
クッキー生地はいじるほど小麦粉のグルテンが出てかたくなるし、バターも一度溶けたものがかたまると生地のさっくり感が落ちるというのがその理由らしい。
幼いころ、菓子作りをしていた父親にそう教わった私は、大人になってふと思った。
おいしい最初の一番生地でたくさん取れる型抜きクッキーをつくりたい!
単純な四角のクッキーとかにすればムダは省けるがそっけない。かわいくてムダの少ない型抜きクッキーはできないものか……。
ムダとは型と型のあいだの余り生地のことだ。だったらパズルみたいにすき間なくつながる型にすればいい。でも、あまり複雑だと型を抜くのがむずかしくなる。形はなるべく単純に。でもかわいく。
そうやってあれこれ考えてできたのが「デジネコクッキー」の型だった。
デジネコクッキーの図案 |
私はグラフィックデザインの仕事を生業としてきた。しかし、自分がデザイナーと名乗るとき、自分の手のひらの頭脳線のまっすぐぶりを思っていつも気が引けていた。
手相では、横にまっすぐ伸びる頭脳線は合理的にものを考えるのが得意なリアリスト、対して、小指の下側の方に落ちるようにカーブして伸びる頭脳線はクリエイティブで想像力(創造力)が豊かな人とよむ。
デザイナーならクリエイティブな頭脳線であってほしいもの。同業の友人の手のひらをみても、みんな頭脳線がカーブしている。
かけ出しのころ、仕事がないと「やっぱり私はデザインに向いてないのかな……」と、自分の手のひらの頭脳線をぐりぐり爪でなぞって無理やりカーブにしたりもした。
そんなクリエイティブなことにコンプレックスのあった私がなんとなく吹っ切れたのは、デジネコのおかげだった。
デジネコの型は超合理的に考えたデザインだが、自分でも「面白いでしょ!」と胸をはれる。発想としてはムダのないデジタルなイメージなのだが、クッキーの型にすることでアナログな仕上がりになるところも気に入っている。
頭脳線が長い私はしつこく考えるところがある。まじめに合理的に考え続けると、どこかの地点で裏返って面白いことになっていく。まじめだけど、なんかおかしい。そこに私ならではのクリエイティブがあるのかも、と思えるようになった。
頭脳線はその人の性格や考え方をあらわしているから、仕事の向き不向きをよむのにも役立つ線だ。
人はやっぱり向いていることをしている方が幸せだと思う。でも、何かをやるときのやり方は一つとは限らない。同じジャンルでも切り口は色々ある。
自分の向き不向きを考える前に、まずは自分の「好き」から動いてみる。もし「好き」がなければ、偶然出会った目の前のものにとりあえず向き合ってみる。そこで自分ができるやり方をあれこれ探してみる。
やってみてじっさいに向いていなくても、そこから何か思いもよらぬ方法がみつかるかもしれない(みつからなくても経験値は上がるし!)。
仕事ってそうやって自分で少しずつ掘り出していくものなのかな、と、我が手のひらをみてよく思う。