もし、この世界に唐揚げが好きな人間が私一人だけだったら、精魂こめておいしい唐揚げを作ってくれるお店は一件もなく、よりおいしい作り方を考案してくれる料理研究家はきっといない。
私は一人、誰にも見向きもされず鶏肉に下味をつけ、片栗粉をまぶし、黙々と揚げるのだろう。それだって悪くないかもしれないが、自分という可能性から突き抜けた唐揚げに出会う喜びは知らないままだ。
唐揚げに携わる人たちがちゃんと商売になるくらいに、唐揚げを求める人たちがいる世界。唐揚げを求める人たちの中には、私の嫌いな人だっているかもしれないけど、それだって唐揚げの前ではありがたい存在だ。
そんな世界に生まれて私は本当に運がよかったと思い、一人じゃない素晴らしさを、一人奥歯で噛みしめる。
Y駅にある中華そば屋の唐揚げは衣がザクザクで塩味で本当に美味しくて毎日でも食べたい。
ごちそうさまでしたと挨拶すると前歯の欠けた店主が満面の笑顔で
「またお待ちしてます!」と言ってくれるのもおいしいの一部。
「またお待ちしてます!」と言ってくれるのもおいしいの一部。